日本の介護現場において、外国人スタッフの存在はもはや欠かせないものとなっています。厚生労働省の推計によれば、2040年度には約69万人の介護職員が不足するとされており、外国人材の確保は施設運営の継続において最重要課題の一つです。
しかし、いざ外国人材を受け入れようとしても、「特定技能」「技能実習」「留学生」といった異なる枠組みがあり、どれが自施設に適しているのか判断に迷うことも多いでしょう。また、制度改正の動きも激しく、情報のアップデートが求められています。
本記事では、介護職の皆様が知っておくべき「外国人材の3つの在留資格」について、現場目線で分かりやすく解説します。
技能実習(育成就労):国際貢献と技能習得の枠組み

「技能実習」は、もともと日本で培われた技術や知識を開発途上国へ移転し、その国の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とした制度です。
介護現場における技能実習の特徴
介護職種が技能実習に追加されたのは2017年のことです。実習生は入国時に日本語能力試験(JLPT)のN4(基本的な日本語を理解できるレベル)以上が求められます。実習期間は最長で5年となっており、1年ごとに技能評価試験を受けながらステップアップしていきます。
制度の大きな転換点「育成就労」への移行
ここで重要なのが、2024年6月に成立した改正入管法などにより、従来の「技能実習」が廃止され、新たに「育成就労」制度が創設されることです(2027年までに施行予定)。
これまでの技能実習は「国際貢献」が建前であり、原則として職場を変える「転籍」が認められていませんでした。しかし、新制度である育成就労は「人材確保と育成」を目的に掲げ、一定の条件下で転籍も可能になります。これにより、より長期的に日本で働き、キャリアアップを目指す仕組みへと変わります。
特定技能:現場の即戦力として期待される新しい在留資格

2019年に新設された「特定技能」は、深刻な人手不足に対応するために作られた在留資格です。技能実習が「学び」に重点を置いていたのに対し、特定技能は最初から「即戦力」としての働きが期待されています。
特定技能1号と2号の違い
介護分野での特定技能には、現在「特定技能1号」があります。
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特定技能1号: 技能試験と日本語試験の両方に合格(または技能実習2号を良好に修了)した外国人が取得できます。在留期間は通算5年です。
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特定技能2号: 2023年に介護分野も対象となりました。熟練した技能を持ち、試験に合格すれば、在留期間の更新制限がなくなり、家族の帯同も認められるようになります。
介護現場での業務範囲
特定技能のスタッフは、入浴・排泄・食事の介助といった「身体介護」だけでなく、レクリエーションの企画や実施、さらには夜勤業務にも最初から入ることが可能です(施設の判断によります)。技能実習生よりも現場での制限が少なく、柔軟なシフト配置ができるのが大きなメリットです。
留学生:将来の介護福祉士候補としてのポテンシャル

「留学生」として入国し、日本の介護福祉士養成施設(専門学校など)で学びながら働くルートです。
資格外活動としてのアルバイト
留学生は「資格外活動許可」を得ることで、週28時間以内であればアルバイトとして介護現場で働くことができます。この段階ではまだ学生ですが、現場に馴染み、日本の介護文化を直接学ぶ貴重な期間となります。
「介護」ビザへの変更
養成施設を卒業し、国家資格である「介護福祉士」を取得すると、在留資格を「介護」に変更することができます。
この「介護」ビザには在留期間の更新に制限がなく、永住権の申請や家族の呼び寄せも可能です。高い専門性と日本語能力を兼ね備えているため、現場のリーダー候補として長く活躍してくれることが期待できます。また、国費による奨学金制度や、各自治体の支援金制度が充実していることも、留学生ルートの特徴です。
結局どれがいい?それぞれのメリット・デメリットを徹底比較

3つの在留資格は、それぞれ導入のスピードやコスト、期待できる役割が異なります。
1. 導入スピードと即戦力性
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特定技能: 最も即戦力に近い。試験合格者であれば、現場のルールを教えるだけですぐに実務に入れます。
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技能実習(育成就労): 育成を前提としているため、最初は指導に時間がかかりますが、計画的に人を育てる文化がある施設に向いています。
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留学生: 在学中は短時間勤務ですが、卒業後の定着率は非常に高く、将来の幹部候補となります。
2. コスト面の違い
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特定技能・技能実習: 送り出し機関への手数料や、管理団体・支援委託機関への月々の管理費が発生します。
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留学生: 学費の支援(奨学金)を行う場合は初期コストがかかりますが、直接雇用に近いため、外部への継続的な管理費を抑えられる場合があります。
3. コミュニケーション能力
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留学生: 日本の学校で学んでいるため、最も日本語が堪能な傾向にあります。
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特定技能: 日常会話レベルはクリアしていますが、介護特有の専門用語のフォローが必要です。
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技能実習: 入国時は最低限のレベルであるため、現場での継続的な日本語教育が欠かせません。
外国人スタッフを受け入れる際の3つのポイント

どの枠組みで受け入れるにせよ、現場の介護職が意識すべき共通のポイントがあります。
1. 「やさしい日本語」の活用
難しい専門用語や、曖昧な指示(「ちょっとそれ取って」「いい感じにして」など)は避けましょう。「机の上に置いてください」「10分後に戻ってください」など、具体的で短い文章を心がける「やさしい日本語」がコミュニケーションの鍵です。
2. 文化の違いを尊重する
食事の習慣、宗教的な行事、家族に対する価値観など、日本とは異なる背景を持っています。これらを「日本のルールだから」と一方的に押し付けるのではなく、お互いの文化を尊重し合うことで、信頼関係が築けます。
3. 孤立させないサポート体制
異国の地で働く不安は想像以上に大きいものです。仕事の面だけでなく、生活面(ゴミの出し方や買い物の仕方など)での相談に乗れる担当者を決めておくなど、心理的な安全性を確保する工夫が必要です。
日本で介護の仕事を始める外国人の方にとって、最大の不安は「言葉」ではないでしょうか。「日本語能力試験(JLPT)には合格したけれど、現場の言葉が聞き取れるか不安」「お年寄りにどんな言葉をかければいいかわからない」という悩みは非常に多いです。[…]
まとめ
介護分野における「特定技能」「技能実習(育成就労)」「留学生」は、それぞれ異なる目的と特徴を持っています。
短期的な人手不足の解消を目指すなら「特定技能」、中長期的な育成を視野に入れるなら「技能実習(育成就労)」、そして将来の専門人材を確保したいなら「留学生」というように、自施設のビジョンに合わせた選択が重要です。
大切なのは、どの制度を利用するかだけでなく、迎え入れる現場の私たちが「共に働くパートナー」として彼らを歓迎する準備ができているかどうかです。外国人スタッフがその能力を最大限に発揮できる環境を整えることは、結果として利用者様への質の高いサービス提供につながり、施設全体の活力を生み出すことになるでしょう。
制度の転換期にある今だからこそ、正しい知識を持って外国人材の受け入れを検討してみてはいかがでしょうか。
