徘徊・不穏・帰宅願望…認知症の「困った行動」を解決するプロの対応術

認知症の中核症状(記憶障害など)に伴って現れる、徘徊や暴言、不穏といった症状を**BPSD(行動・心理症状)**と呼びます。
これらは周囲を困らせるための行動ではなく、ご本人が抱える「不安」や「不快感」のサインです。
「問題行動」と捉えるのではなく、「メッセージ」として受け取ることで、解決の糸口が見えてきます。

なぜ徘徊や不穏が起きるのか?3つの要因

なぜ徘徊や不穏が起きるのか?3つの要因

まずは、その行動を引き起こしている原因(トリガー)を探りましょう。大きく分けて3つの要因が考えられます。

1. 身体的な不快感(体調不良)

言葉でうまく伝えられないため、行動で訴えているケースです。

  • 便秘や尿意: トイレに行きたい場所がわからない、お腹が張って苦しい。

  • 痛みやかゆみ: どこかが痛い、湿疹がある、服のタグが当たって不快。

  • 空腹や喉の渇き: お腹が空いた、喉が渇いた。

  • 薬剤の影響: 薬の副作用で落ち着かなくなっている(アカシジアなど)。

2. 環境への不適応

周囲の環境がストレスになっているケースです。

  • 騒音や照明: テレビの音がうるさい、照明が明るすぎる/暗すぎる。

  • 場所がわからない: 引っ越してきたばかりで、ここがどこだかわからない不安。

  • 孤独感: 誰も話しかけてくれず、放っておかれていると感じる。

3. 心理的な不安と混乱

「自分はどうなってしまうのか」「大切な役割を果たせていない」という焦りです。

  • 役割の喪失: 今まで家族のために家事をしてきたのに、何もすることがない。

  • 見当識障害: 「今は夕方だからご飯を作らなきゃ」という過去の習慣(記憶)に基づいた行動。

 

【ケース別】具体的な対応テクニック

【ケース別】具体的な対応テクニック

原因の仮説を立てたら、具体的なアプローチを試してみましょう。

ケース1:「家に帰りたい」と繰り返す(帰宅願望)

夕方になると増える「夕暮れ症候群」の一つでもあります。
NG対応: 「ここは施設ですよ」「家には誰もいませんよ」と事実を突きつける(否定)。
OK対応:

  1. まずは共感(受容): 「帰りたいんですね」「お家のことが心配なんですね」と気持ちを受け止めます。

  2. 話題の転換(気分転換): 「バスの時間まで少しありますから、お茶でも飲みませんか?」「暗くなってきたので、温かいものを食べてからにしましょう」と、お茶やお菓子を勧めて意識を逸らします。

  3. 役割の提供: 「洗濯物をたたむのを手伝ってもらえませんか?」とお願いし、「ここにいてほしい理由」を作ります。

ケース2:施設内を歩き回る(徘徊・周遊)

無理に止めると、転倒リスクや興奮を高めるだけです。
対応策:

  • 一緒に歩く(同行): 「いい運動ですね、私もご一緒していいですか?」と隣に並んで歩きます。しばらく歩くと満足して、座ってくれることが多いです。

  • 理由を聞く: 「何かお探しですか?」と声をかけます。トイレを探している場合も多いので、トイレ誘導を試みます。

  • 環境整備: 転倒の原因となるコード類を片付ける、センサーマットを活用するなど、安全に歩ける環境を整えます。

ケース3:突然怒り出す・暴言を吐く(易怒性・不穏)

感情のコントロールが効かなくなっている状態です。
対応策:

  • 距離を取る(クールダウン): 興奮している時に説得しようとしても逆効果です。安全を確保した上で、一旦その場を離れ、刺激を減らします。

  • 原因を探る: 直前に何があったかを確認します。「プライドを傷つけられるような言葉がけ」や「身体的な不快感(便秘など)」がなかったか振り返ります。

  • 謝罪と共感: 落ち着いてきたら、「不快な思いをさせてごめんなさい」と伝え、話を聞く姿勢を見せます。

 

BPSDを予防する「ケアの工夫」

BPSDを予防する「ケアの工夫」

問題が起きてから対応するのではなく、起きないように予防することも大切です。

1. 生活リズムを整える

昼夜逆転は不穏の大きな原因です。日中は日光を浴び、体操やレクリエーションで適度に体を動かし、夜はぐっすり眠れるサイクルを作ります。

2. 「心地よい」と感じる五感刺激

  • アロマセラピー: ラベンダーなどの鎮静効果のある香り。

  • タクティールケア: 背中や手足を優しく撫でる(タッチング)。オキシトシン(幸せホルモン)が分泌され、安心感を与えます。

  • 音楽療法: 懐かしい歌を一緒に歌う、穏やかな音楽を流す。

3. 排泄コントロールと水分摂取

便秘や脱水は、せん妄(一時的な意識障害)を引き起こし、幻覚や興奮の原因になります。こまめな水分提供と排便チェックを徹底しましょう。

 

介護職員自身のメンタルケアも忘れずに

介護職員自身のメンタルケアも忘れずに

BPSDへの対応は、終わりの見えない戦いのように感じることがあります。「私のケアが悪いからだ」と自分を責めないでください。

  • チームで共有する: 「Aさんの帰宅願望が強くて辛い」とカンファレンスで相談し、チーム全体で統一した対応を決めましょう。一人で抱え込まないことが鉄則です。

  • プロとして割り切る: 暴言を吐かれても、「病気が言わせている」と客観的に捉えます(脱中心化)。感情的に巻き込まれないスルースキルも必要です。

 

まとめ

認知症の方の「困った行動」は、言葉にならないSOSです。
「帰りたい」という言葉の裏には「ここは自分の居場所じゃない気がして不安」という心理が隠されているかもしれません。

そのSOSに気づき、安心できる関わり(受容・共感・役割提供)を続けることで、症状は必ず落ち着いてきます。
焦らず、チームで協力しながら、その人らしい穏やかな生活を取り戻すサポートをしていきましょう。