高齢化社会が進む中で、「フレイル」という言葉を耳にする機会が増えました。フレイルとは、加齢に伴い心身の活力(身体機能や認知機能など)が低下し、生活機能障害や要介護状態に陥りやすい、虚弱な状態を指します。しかし、フレイルは適切な介入によって改善・予防が可能です。特に介護施設において、利用者のフレイル予防は、その方の健康寿命を延ばし、自立した生活を支援し、生活の質(QOL)を高めるために、極めて重要な取り組みとなります。
「フレイル予防って、具体的に何をすればいいの?」「日々の業務の中で、どう取り入れたら効果的なんだろう?」
そんな疑問や課題を抱える介護職員の皆さんへ。
ここでは、介護施設で利用者のフレイル予防を実践するための具体的な方法を、分かりやすく徹底的に解説します。運動、栄養、社会参加という3つの柱を中心に、今日からできる声かけや活動のアイデア、多職種連携の重要性まで、実践的なヒントを提供します。利用者さんの元気と笑顔を引き出すフレイル予防を、今日から始めていきましょう。
フレイルとは?なぜ介護施設で予防が重要なのか
フレイルは、単なる「年を取った」状態ではありません。多くの介護施設利用者さんが、多かれ少なかれフレイルの状態にある可能性があります。
フレイルの5つの兆候(日本老年医学会の提唱):
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体重減少: 意図しない体重減少(6ヶ月で2~3kg以上)
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筋力低下: 握力など筋力の低下
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疲労感: 何となく疲れた感じがする
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歩行速度の低下: 以前より歩くのが遅くなった
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身体活動量の低下: 日常的な活動量が減った
これらの兆候が3つ以上当てはまるとフレイル、1~2つ当てはまるとプレフレイル(フレイルの前段階)と判断されます。
介護施設でフレイル予防が重要な理由:
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要介護状態への進行を食い止める: フレイルを放置すると、転倒、骨折、病気などの些細なきっかけで一気に要介護度が進行してしまうリスクが高まります。予防することで、自立した生活を長く維持できます。
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生活の質の向上: 身体機能や認知機能が維持されることで、利用者さんは自分のしたいこと(趣味、外出、人との交流など)を継続しやすくなり、生きがいのある充実した日々を送ることができます。
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医療費・介護費の抑制: 利用者さんの健康状態が維持されることで、医療機関への受診や入院の頻度が減り、介護サービスの利用も最適化されるため、結果的に社会全体の医療費・介護費の抑制にも繋がります。
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施設運営の質向上: 利用者さんが元気で活動的であれば、施設全体の雰囲気も明るくなり、介護職員の負担軽減ややりがいにも繋がります。
フレイル予防の3つの柱:運動・栄養・社会参加
フレイル予防は、特定の活動だけを行えば良いというものではありません。以下の3つの要素をバランス良く組み合わせることが重要です。
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運動: 身体機能(筋力、バランス能力、柔軟性など)の維持・向上
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栄養: 適切な食事による身体機能と健康の維持
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社会参加: 他者との交流や役割を持つことによる精神的・認知的活性化
これらの柱を意識して、日々のケアプランにフレイル予防の視点を取り入れていきましょう。
介護施設で実践するフレイル予防:具体的なアプローチ

フレイル予防の3つの柱に基づき、介護職員が日々の業務の中で簡単に実践できる具体的なアプローチをご紹介します。
1. 運動によるフレイル予防:身体機能の維持・向上
運動は、筋力低下や身体活動量の低下といったフレイルの兆候に直接アプローチできます。
日常動作の中での運動促進:
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「立つ」「歩く」を促す声かけ: 介助が必要な場面でも、可能な限り「少しだけ立ってみましょうか」「ここまで歩いてみませんか」と声かけし、自分で動く機会を増やします。
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歩行支援と安全確保: 手すりや歩行器を活用し、安全に配慮しながら、施設内の散歩や移動を促します。
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座ってできる体操: 椅子に座ったままでもできる簡単な体操(例:足踏み、腕の上げ下げ、指体操)を、レクリエーションや隙間時間に取り入れます。タオルやボールなど、簡単な道具を使うと楽しくなります。
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レジスタンストレーニングの導入: スクワット(椅子からの立ち座り)、かかと上げ(カーフレイズ)など、自分の体重や軽い負荷を利用した筋力トレーニングを、個々の体力に合わせて実施します。
ポイント: 「無理なく、楽しく、継続できる」ことを重視しましょう。痛みや不調がある場合は、すぐに中止し、看護師や機能訓練指導員に相談します。
2. 栄養によるフレイル予防:健康な身体作りの土台
低栄養は、フレイルの進行を早める大きな要因です。適切な栄養摂取は、筋力維持や免疫力向上に繋がります。
食事の工夫と見守り:
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タンパク質の積極的な摂取: 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品など、タンパク質を多く含む食品を毎食欠かさず摂れるよう促します。必要であれば、栄養補助食品の活用も検討します(管理栄養士と連携)。
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多様な食品の提供: 偏った食事にならないよう、様々な種類の食品をバランス良く提供し、食欲を刺激する彩りや盛り付けも意識します。
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口腔ケアの徹底: 義歯の不具合や口腔内の状態が悪いと、食事が摂りにくくなります。食前・食後の口腔ケアを丁寧に行い、食べる機能の維持・向上をサポートします。
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食事環境の整備: 落ち着いて食事ができる環境を整え、必要に応じて介助を行い、誤嚥に注意しながらゆっくり食べてもらえるように見守ります。
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水分の補給: 脱水はフレイルを悪化させることがあります。食事中だけでなく、日中もこまめな水分補給を促しましょう。
ポイント: 利用者さんの好き嫌いや、咀嚼・嚥下能力に合わせた食事形態の提供は必須です。管理栄養士や看護師と密接に連携しましょう。
3. 社会参加によるフレイル予防:心の健康と生きがいの創出
孤立や引きこもりは、フレイルや認知症の進行を早めます。他者との交流や役割を持つことは、精神的な活性化に繋がります。
交流の機会の創出:
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レクリエーションへの参加促進: 集団で行うレクリエーション(例:歌、ゲーム、手芸)に積極的に誘い、他者との交流を促します。
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傾聴と個別対話: 職員が積極的に利用者さんの話を聞き、個別で対話する時間を設けることで、孤立感を和らげ、信頼関係を築きます。
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地域交流の機会: 地域のボランティアとの交流や、地域行事への参加など、外部とのつながりを持つ機会を提供できるとさらに良いでしょう。
役割を持つことの支援:
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簡単な役割の提供: 「テーブルを拭くお手伝いをお願いします」「お花の水やりをお願いできますか?」など、利用者さんの能力に合わせて簡単な役割を提供します。
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得意なことの活用: 昔得意だったこと(例:書道、手芸、絵画)を活かせる機会を提供し、その成果を他の利用者さんや職員に披露してもらうことで、自己肯定感を高めます。
ポイント: 参加を強制するのではなく、「やってみませんか?」と優しく誘い、本人の意欲を尊重することが大切です。
フレイル予防の実践を効果的に進めるためのヒント

フレイル予防を施設全体で効果的に推進するための具体的なヒントをご紹介します。
1. 利用者さんの状態の「見える化」と早期発見
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定期的なスクリーニング: 体重、握力、歩行速度、活動量、食事量などを定期的に測定し、変化に気づけるように記録します。施設全体で共通のチェックシートやアセスメントツールを用いると良いでしょう。
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職員間の情報共有: 「最近、〇〇さんの食欲が落ちている」「△△さんの歩くスピードが遅くなった気がする」といった日々の気づきを、職員間で密に情報共有し、早期発見に繋げます。
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家族への情報提供と連携: 利用者さんの自宅での生活状況や、体調の変化について家族からも情報を得られるよう、定期的な面談や連絡を通じて連携を図ります。
2. 多職種連携の強化
フレイル予防は、介護職員だけで完結するものではありません。
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看護師: 利用者さんの健康状態を把握し、基礎疾患や内服薬がフレイルに影響していないかを確認します。体調不良時の早期対応も重要な役割です。
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管理栄養士: 個々の利用者さんの栄養状態をアセスメントし、適切な食事内容や栄養補助食品の活用について助言・指導を行います。
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機能訓練指導員(理学療法士、作業療法士など): 利用者さんの身体機能や運動能力を評価し、個別性に合わせた運動プログラムを作成・指導します。
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ケアマネージャー: 介護計画にフレイル予防の視点を組み込み、多職種連携の中心的な役割を担います。
これらの専門職と密に連携し、利用者さん一人ひとりに合った「個別ケアプラン」を作成・実行することが重要です。
3. 継続できる仕組み作りと職員への教育
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フレイル予防の意識向上: 介護職員全員がフレイル予防の重要性を理解し、日々の業務の中で意識して実践できるよう、定期的な研修や勉強会を実施しましょう。
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小さな成功体験の共有: 「〇〇さんが、こんな活動で元気になった!」といった成功事例を職員間で共有することで、モチベーション向上に繋がります。
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無理のない範囲での実践: 介護職員の業務負担が増えすぎないよう、日常業務の中に自然に組み込めるような簡単な活動から始めることが大切です。
まとめ
介護施設におけるフレイル予防は、利用者の健康寿命を延ばし、自立した生活と生きがいを支えるために不可欠な取り組みです。
運動、栄養、社会参加という3つの柱を意識し、日々のケアに「立つ・歩くを促す声かけ」「タンパク質摂取の促進」「レクリエーションへの参加促進」「簡単な役割提供」といった具体的な実践方法を取り入れましょう。
利用者さんの状態の**「見える化」と早期発見**、そして看護師、管理栄養士、機能訓練指導員、ケアマネージャーといった多職種との密な連携が、フレイル予防を効果的に進めるための鍵となります。
「年だから仕方ない」と諦めるのではなく、介護職員一人ひとりがフレイル予防の意識を持ち、できることから実践していくことで、利用者さんの元気と笑顔、そして充実した毎日を支えることができます。今日からぜひ、利用者さんの「できる」を一緒に見つけ、フレイル予防に取り組んでいきましょう。